江ノ電に乗って
休日ふと思い立ち東京から鎌倉までぶらりと、そのまま海岸沿いに私鉄に乗って江ノ島を望む港町にたどり着きます。

4階建てのコンパクトなコンクリート造の建物が港との境の角地に見えたら、それは一年前にオープンしたばかりのHOTEL AOです。

蒼い蕎麦屋の暖簾がかかる、一風独特な趣が感じられる湘南の宿です。
建築家・千葉学によるコンクリートの箱にオーナーのリゾートへのこだわりが詰まったオリジナルなホテルです。東京のシティホテルらしい堅苦しさは微塵もありません。

建物の中を海からの爽やかなブリーズが抜けていきます。
海の宿

エントランスに入るとアイコンカラーのブルーとウッドが主張しています。
金属よりも潮風に耐性のある木製サッシを全面的に採用すると同時に、シーサイドの雰囲気をナチュラルに醸し出しています。


吹き抜けやテラスの効果的な配置計画など、建築による空間構成は千葉学のものながら、家具や備品をはじめとした細やかなコーディネートはオーナーのこだわりによるものです。

良いものを知っている人だけの持つ、手慣れた演出のセンスが光ります。

客室の準備を待つ間、館内の見学案内へ。

バンケットに隣接する屋上テラスからは江ノ島方面と海岸が一望できます。地上の喧騒からはかけ離れた別世界的な静けさです。
結婚式の準備がちょうどおこなわれているところでした。
館内を貸し切って式を挙げるにはちょうどいいスケール感です。
構築的なテラス


そして館内2室のみの江ノ島を望むスイートルームを見学させていただきました。
いずれの部屋も建物の形状に合わせた台形のプランをしており、それが空間にアクセントやゆらぎを与えています。

一般的なホテルの長方形タイプはひとつとしてありません。広々としたレジデンス調の部屋ながら、ベッドルームとラウンジの間に塊のように挿入されたテラスが空間を効果的に分割しています。

建築家の面目躍如であり、住宅設計のエッセンスが垣間見られるところです。

客室は外部廊下で中庭を囲みながら周ります。

下には見え隠れするダイニングが。
なんとなく集合住宅や学校を思わせる空間構成と動線計画です。
いわゆるホテルというビルディングタイプからは自由なつくり方とも言えるでしょう。
碧の壁
スタッフに案内され本日のお部屋にチェックインです。

広めのスタンダードながら36㎡とミニマムなテラスがついています。一面の壁がブルーのアクセントウォールとして彩られています。
部屋の中央に位置するダブルベッドの背面にはシンクつきのカウンターが配され、アマンのようなリゾートホテルを意識しているようです。


鏡がスライドして水回りとベッドルームを隔てます。

部屋内に差し込んだ三角形の小さなテラスから海の風と音が流れてきます。


栓抜きから照明、ドライヤーに至るまで、備品や小物ひとつひとつにオーナーのこだわりとセンスが感じられます。
夜は蕎麦で

夜は天ぷらそばと湯豆腐を。
シティホテルのインルームダイニングで出されるそれよりも本格志向の渋さで、同時に家庭的なさりげなさも感じさせます。
スタッフに聞いたところホテルの裏コンセプトは蕎麦屋のオーベルジュとのこと。近所の住人らしき来客も多く、街中のダイニングといった風情です。



そして海風を聴きながら、眠りにつきます。
モアレの影


目が覚めると、朝の光がモアレをはらんだカーテンからさしこみ、部屋内にさざなみをつくりだしていました。

朝食も一階のダイニングにて。


蕎麦打ちの実演をみながら、新鮮な二八蕎麦をいただきました。
そのあと作りたても追加で試食させていただきました。
出発


湘南の海と街の喧騒の境に建つ、趣のあるプライベート感あふれるホテルでした。
日本人の手による粋なスモールホテル、今後も増えてほしいものです。
【滞在したホテル】