小布施
信州の旅は続きます。
松本で宿をあとにし今回の目的地のひとつ、桝一客殿に向かいます。
小布施堂・桝一グループの所有する酒蔵群が香港のジョン・モーフォード氏のデザインにより、和洋融合したラグジュアリーホテルへとリノベーションされています。
導入
小布施駅からのどかな街を辿って小布施堂の敷地に入ると、厳かな客殿の門構えが目の前にあらわれます。
落ち着きと威厳のあるエントランスに通され、ソファに座りながらチェックインします。
蔵の骨格を残しながらも、視界の抜けなど随所に和様とも近代的ともとれる空間演出がなされています。
このオーナー家系の伝統では客人は新たな知識をはこびこむ「まれびと」として、恭しくもてなされたそうです。
鯉が優雅に戯れる池をブリッジで渡り、路地を抜けつつ客室のある蔵へと向かいます。
伝統家屋と黒光りする鉄骨フレームが組み合いながら緊張感とある種の官能美をつくりだしています。
槍稽古の部屋
螺旋階段を登り2階客室前まで案内されます。
部屋名や番号はなく、扉に示された葛飾北斎の絵が木箱のような鍵の札と照合します。
客室に足を踏み入れると、どこか見覚えのあるラグジュアリーな雰囲気に目を奪われます。
それもそのはず、新宿のパークハイアットも手がけるジョン・モーフォード氏のシンメトリーかつ荘厳な空間です。
天井を見上げると小屋組の梁がモダンデザインとの協奏をかなでています。
ロビーで渡された地図に「かいわい」の配置が示されています。
この宿を中心として、レストランやバーなど小布施堂・桝一の各施設をめぐることで、界隈全体をホテルとして体験することができるコンセプトです。
ウェルカムの冷えた緑茶と和菓子で旅疲れを潤します。
路地内の蔵の一つにはライブラリーも。
モーフォード氏のデザインらしくミラーが空間の要素として巧みに組み込まれています。他の客室へのアプローチや階段もそれぞれ異なる意匠で配されてます。
硝子の桶
客室に戻り、特筆すべきバスルームにはいります。
湯船の四周がガラスでできており、今までにないスペクタキュラーなバス体験を味わえます。
蛇口をひねると驚くほどの勢いで1.5m四方の浴槽がわずか10分足らずで満たされます。
小布施づくし
そして星空のきれいな夜道を歩きながら離れの夕食会場へと向かいます。
小布施堂の裏道を進むと闇夜の奥にダイニングの看板が。
昼はカフェのためゲスト用のエントランスから入ります。
昼は観光客で賑わう和菓子のディスプレイを横目にダイニングまで案内されます。
宿泊者だけのプライベート空間で栗ご飯や信州特産の果物など、素朴ながらも丁寧で華のあるメニューが運ばれてきます。
帰り途中には同じくモーフォード氏が手がけたバー・食事処「蔵部」の入り口も見かけました。
ベッドの出迎える部屋に戻り、床につきます。
庭園
朝になり、蔵の窓から小さくやわらかな日差しがさし込んできます。
身支度をして、また客殿の外へと出かけます。
朝食もまたもうひとつの瀟洒なイタリアンレストランでいただきます。
地産のみずみずしい野菜と卵料理、そして林檎ジュースをいただきます。
夜とはうって変わり、のどかな朝の街並みを楽しみながら宿へ戻ります。
小布施ではいくつかの個人宅の見事な庭が解放され、自由に見学することができます。
時には家主の寛ぐ姿も。
「かいわい」の見事なランドスケープは長野の建築家・宮本忠長の手により年月をかけて「修景」されたものです。
部屋に戻ってブックレットをながめます。
オーナーとモーフォード氏の出会いなど、より深くこの宿についての造詣を深めることができます。
チェックアウト前に一階の客室を見学します。
蔵に窓のない代わりに明るい坪庭に面した書斎が何時間もくつろげそうなコージーさを醸し出しています。
桝一酒造
そして宿をあとにします。
国内で見られるモーフォード氏の作品は限られてますが、妥協を許さない精緻なクオリティと風化することのないソリッドさが特徴です。
この客殿では理想的な和洋融合のバランスを讃え、どことなく上品なエロスも感じさせます。
客人をもてなすホスピタリティもさながら、インテリアデザインに興味もしくは生業とする人は訪れて損はないでしょう。