16時発のあずさ37号
仕事終わりのお盆明けの昼過ぎ、自宅を抜け出し特急に揺られながら長野の旅へ向かいます。
沈んだ雲の隙間を透かしながら車窓に西日が差し込みます。

古都
着いた先はかっての信州の商業と文化の中心地、松本。

決して派手さはないものの街全体がきれいに整っており、そこはかとない品性を醸し出しています。
名のある建築家の作品もちらほらと。

市街地を抜けかっての城下町に近づくと、大正ロマンを彷彿とさせるレトロな街並みが姿をあらわします。


観光地区でもありながらも、わかりやすい押しつけがましさがありません。

ハイカラな宿
松本城にほど近いホテル花月にたどり着きます。
期待以上に趣のある明治20年創業の宿です。

「ハイカラ」を絵に描いたような看板が門構えを引き締めます。2016年の改修を経て、より親しみのあるホテルに生まれ変わりました。


チェックインをすませ、この規模のホテルにしてはゆったりとしたロビーでしばし寛ぎます。

「泊まる民藝」のコンセプトどおり、空間全体が木・タイルなど本物の素材と工藝で成り立っています。

ところどころ椅子の肘掛けなど経年の擦れが、むしろ味わいとなって年月の流れを讃えています。
渋いしつらえに佇む鮮やかなスカーレットのランプが上品なアクセントになってます。

民藝の客室
客室もコンパクトながら木製家具の温かみに囲まれています。
近年新しいホテルに泊まるとコスト・メンテナンス優先の合成建材の多さに違和感を受けることもありますが、ここは本物に囲まれた落ち着ける空間です。


木製のキーホルダーや畳をあしらった内履きなど調度品にもこだわりがあります。



夜のダイニングを見学。民藝の椅子や造作が惜しげもなく使われています。
安心感がありながらも勾配のついた光天井などシャープな意匠がうかがえます。


そして別館へ廊下で渡り、地下の大浴場で汗を流します。途中ホテル内の喫茶店を散策します。


信州を味わう
すでに周辺のレストランも閉まり、夜もだいぶ更けてきたためホテルから出てすぐの居酒屋へ。
名物の野沢菜など素朴な品々ながらも、味はもちろん品のいい盛りつけと器でした。


モーニング


朝食はビュッフェで混みあうダイニングを避け、昨晩通った喫茶店でたまごサンドのモーニングを軽くいただきます。


スーベニアショップもこの通り、賑やかながらも工芸品が主役になるシンプルなしつらえです。
松本をあるく




チェックアウト後は松本城を囲む小布施の街を散策します。
レトロスポットから今どきのおしゃれなカフェまで飽きることなくバランスよく点在しています。

長野県は多くの著名建築家を輩出しており、この市民芸術館をデザインした伊東豊雄もその一人です。

建物に散りばめられたモチーフの意味やコンセプトも、建築雑誌を読むだけでなく、一晩街に身を置くことでより伝わってくるものです。


松本市美術館では同じく松本出身の美術家、草間彌生の展示も。
設計はこちらも長野で活躍する建築家の宮本忠長です。

松本は多くの文化人を輩出した気概と歴史が感じられる、つつましくも品性の感じられる街でした。
【滞在したホテル】