2020年の12月のまさに末、私は山の上ホテルに来ていました。
じつは学生時代から教授に連れて行かれたりと、なにかと縁のあるホテルですが、パーラーと地下のバー以外利用したことがありませんでした。
[灯台]もと暗しとはまさにこのことでしょうか。
SNSでホテル好きの知り合いが増えるにつれて何度か話題にあがり、この年のホテルステイのシメとして、一度泊まろうと思い立ちました。
タイムトンネルの入り口
お茶の水から脇道にそれ、坂道を登ってホテルにたどり着くと、すでに新年を迎え入れる装いを整えていました。
再開発による華やかな五つ星ホテルとはまた異なった、知的な気品がただようホテルです。
ご存知のとおり夏目漱石、池波正太郎など名だたる文豪が逗留した歴史があります。
たとえばパリであれば、シャネルがリッツに籠るような感覚でしょうか。
少し前に手を加えられたものの、昔の雰囲気を残しながらも整った内装です。
ヴォーリズ事務所による図面が廊下脇のソファーの上部にさりげなく飾られていますね。竣工した1937年からすでに80年以上経つことになります。
ひとときのパーラー
チェックインまで時間があるため、まずはかって通っていたパーラーへと脚を運びます。
今日ははじめてマカロニグラタンを注文してみます。
というのも、この年某人気女優がこちらのホテルを題材としたドラマで食べられたことにかぶれてではありますが。
そのせいもあって、こちらのお店はドラマ後大盛況とのことです。
まずはデザートを選ぶところから始まります。
今回はホテル名をあしらったチーズケーキをセレクトします。
しばらくするとサラダ、お目当てのマカロニグラタンと順によいタイミングで運ばれてきます。
とてもボリューム感があり、よくイメージする小さな耐熱皿におさまったマカロニグラタンとは別種のものです。
中のマカロニもひとつひとつが大きく長く、食べごたえがあります。
運ばれてきたチーズケーキ、なんとなく現代的な可愛らしさがあると思ったら、やはり今をときめくデザイン集団nendoによるものとのことです。
温故知新とはこのことですね。
コーヒーは店の奥に飾られたサイフォンから抽出される水出しコーヒーです。
お部屋の様子
ランチをすませたところで、カウンターでチェックイン手続きをします。
アクリルでできたキーホルダーの存在感が素晴らしいですね。
今回泊まった部屋は洋室タイプの約25平米タイプです。
かなりコンパクトですが、間口が広く家具も統一されて配置に無駄がないため、趣味のよい知人の家に来たかのようなような安心感があります。
机上には文豪気分を味わえるよう、ペン立てと原稿用紙が用意されています。
細かい気配りがなかなかにくいホテルですね。サインも浴室のアメニティに至るまで手書き文字が織り交ぜられています。
部屋でしばらく寛ぎ、日が落ちたところで夕食のために下へ降ります。
廊下・階段だけでも往時のアールデコの雰囲気をよく残しています。
まるで某銀行ドラマの主人公が出てきそうな厳かなしつらえですね。
至高の天ぷら山の上
夕食は年末ということもあり、少々奮発してグルメ本にも度々紹介されている[天ぷら 山の上]を選びました。野菜中心のコースをセレクトします。
カウンターに案内され、天ぷらがあがるのを待ちます。
まんまるとした大根おろしがかわいらしいですね。実は天ぷらについては高級店ははじめてだったりします。
次から次へと出される揚げたての天ぷらに舌鼓をうちながら大満足の1時間半でした。
やはり高級店は別格です。
揚げ用のゴマ油は焙煎しない二種タイプのブレンドさっくりあっさり、小麦粉と卵だけの衣も最小限のつけ加減でまさしく野菜そのものの味と歯ざわりを楽しめました。
最後はゴボウのかき揚げ丼、そしてオレンジのデザートでシメです。
文豪気分の小物づかい
部屋に戻り、寝る前の数時間をまったり過ごします。
しかしデジタルデバイス全盛のいま、自分もご多分にもれず、実際の筆を手にとる機会がないのは、若干さびしいものです。
部屋内は家具が多いながらもひとつひとつのスケールが可愛らしいサイズで、整った配置をされてることで狭く感じることはありません。
日本家屋的な空間デザイン手法でしょうか。
そして、朝
さて、一晩あけて朝食会場のフレンチレストラン・ラヴィに向かいます。
真っ赤なフラワーアレンジメントが迎えてくれます。
気立てのいいスタッフさんにサーブしていただきます。
以前は外資系ホテルに勤められてたとのことで、西洋などの異文化から運ばれるのはモノや情報だけでなく知識や経験を持った人そのものもあるということですね。
卵料理はサニーサイドアップをいただきます。
塩入れの器が可愛らしく感銘を受けました。
やはりこのような未知との出会いがホテルの醍醐味でもありますね。
ジャムは高級ジュースで有名なalainmilliatのものです。
ごきげんよう、ヒルトップ
こちらウサギとカメの置物、竣工当時から80年以上の時を経ているとのことです。
同じ棚に博物館に保管されてもよいような歴史的逸品がところせましと飾られていました。
それでは、午後のホテルを後にします。
歴史と気品とトリビアに満ち、ところどころラグジュアリー要素のある素敵なクラシックホテルでした。
ちょっとしたプチ贅沢をするにも英気を養うにもよいホテルではないでしょうか。
またお世話になるでしょう。
【滞在場所】